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書評:社長失格 | 板倉 雄一郎を読んだ感想

【社長失格を手にしたきっかけ】

南場智子さんの『不格好経営』を久しぶりに読み返してみた。改めて読み返してみたが、この本は会社経営のことやベンチャー企業の成長する過程を事細やかに記しており、めちゃくちゃ面白い。その『不格好経営』の文中に南場さんが優秀な人材をヘッドハンティングする際、『この本を読んで、心が躍ったら来てくれ』という誘い文句があった。

この言葉、妙に心に引っかかった。

南場さんが紹介したその本こそ『社長失格』である。

前置きが長くなったが、そんな理由で『社長失格』を読み始めた。

 

■ジェットコースターのような話(『社長失格』の内容)

『社長失格』の著者板倉氏は1991年にハイパーネットを設立した。事業内容は、コンピュータの音声応答装置を使い、電話で懸賞広告への応募や通信販売を受けるIMS事業から始まった。その後、ユーザーへの広告掲載をする代わりにインターネットのプロバイダー料金を無料にするシステム(ハイパーシステム)を発案し、大手銀行含め、7銀行から約20億円の資金調達を行った。

そこから板倉氏の快進撃が始まり、1) ソロモンブラザーズからナスダック公開の提案を受けたり、2) ニュービジネス大賞に受賞したり、3) ビル・ゲイツ会長と会談したり、4) 韓国サムソングループとのライセンス契約を行ったり、傍からみると上り坂一直線であった。が、当時国際的に自己資本比率が低い日本の銀行は貸付債権の圧縮に乗り出したことにより、銀行からの「貸し渋り」が徐々に始まる。加えて、インターネット広告事業は当時予想したほどの成長はまだしておらず、売り上げを上回る融資を受けていたハイパーネットは多額の負債を抱えてしまう。その結果、1997年にハイパーネットは倒産してしまうのだ。

社長失格』では、ハイパーネット設立から倒産・自己破産までの一部始終が詳細に記載されており、会社が成長するスピード感や会社が倒産する過酷さを擬似的に体験することができる。

経営者なら誰でも倒産はしたくない。だからこそ教訓として読んでみる価値がある一冊だと思った。

時代の流れ、起業する分野、戦略、駆け引き、人脈などなど、勉強になることが多い書籍であった。

 

■夏野さん登場

筆者の夏野剛氏のイメージはiモードの第一人者であり、たまにニコニコ生放送津田大介氏らなどと出演する人(夏野氏はドワンゴの取締役でもある)という印象を持っていたが、以前夏野氏の発言にドコモに勤める前はベンチャー企業にいたという発言があった。勘のいい人はお気づきだろう。そう、そのベンチャー企業こそハイパーネットなのだ。

社長失格』ではクーデター事件(板倉氏を社長の座から下ろすことを企てた事件)に夏野氏がどうやら絡んでいるという記載ぶりであった。その事件を機に夏野氏と板倉氏の溝が生まれたという内容も記載されている。が、やはり夏野氏は秀才である。『社長失格』でもその旨がところどころに記されている。勘が鋭く、頭が切れる描写がいくつもあるのだ。特に金融機関との交渉シーンにて、相手の機微や言動から、落としどころを見抜く洞察力は流石だなと思った。

また、ビル・ゲイツとの会談にて夏野氏はハイパーシステムの概要をプレゼンする。板倉氏はその様子を達観して見ており、交渉の際のそれぞれの役割や能力を生かして、ビル・ゲイツと駆け引きをする様子がリアルに記載されている。

 

■孫さんも登場

社長失格』では若かりしき頃の孫正義氏も登場する。

ハイパーネットが経営難になった際、板倉氏は孫氏に買収の相談を持ちかける。

孫氏の物腰の柔らかさや決断と行動力の早さに圧巻した。

隙があるようで隙がない。孫氏の立ち振る舞いに脅威すら感じた。